昼間は猪苗代湖と磐梯山を望む絶景のドライブコース、しかし夜の帳が下りると、その表情は一変する。福島県郡山市と猪苗代町を繋ぐ「御霊櫃峠(ごれいびつとうげ)」は、戊辰戦争の悲しい歴史を背景に持ち、霧深い闇夜に鎧武者の霊が彷徨うと囁かれる県内屈指の心霊スポットだ。
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昼間は猪苗代湖と磐梯山を望む絶景のドライブコース、しかし夜の帳が下りると、その表情は一変する。福島県郡山市と猪苗代町を繋ぐ「御霊櫃峠(ごれいびつとうげ)」は、戊辰戦争の悲しい歴史を背景に持ち、霧深い闇夜に鎧武者の霊が彷徨うと囁かれる県内屈指の心霊スポットだ。美しい景色と背筋も凍る怪談が同居するこの峠は、訪れる者に忘れられない記憶を刻み込む。
歴史的背景
「御霊櫃」という曰くありげな地名は、この地で繰り広げられた悲劇の歴史に由来する。最も有力な説は、1868年の戊辰戦争の際、この峠で命を落とした会津藩の若き兵士たちの御霊を櫃(ひつぎ)に納めて祀った、というものだ。激戦地となったこの場所では、多くの名もなき兵士たちが故郷を想いながら無念の死を遂げた。
古くから会津と中通りを結ぶ要所であったこの峠道は、多くの人々の往来を見守ってきたが、戊辰戦争以降、戦死した兵士たちの無念の魂が留まる場所として、地元の人々に畏怖されるようになった。静かな峠に響く風の音は、今もなお、彼らのすすり泣きのように聞こえるのかもしれない。
怪奇現象・体験談
御霊櫃峠で語られる怪奇現象の多くは、戊辰戦争で亡くなった兵士、特に鎧武者の霊に関するものである。
- 霧の中に浮かぶ鎧武者 この峠で最も有名な噂。霧が深くなる夜、車のヘッドライトの中に、血まみれの鎧武者が忽然と姿を現すという。ドライバーが驚いて急ブレーキを踏むと、その姿は音もなく消えているという。また、「馬に乗った武者行列が目の前を横切った」「カーブの先に、刀を杖代わりにしてたたずむ落ち武者がいた」など、数多くの目撃談が後を絶たない。
- カーブミラーに映る女性の霊 峠道の途中にあるカーブミラーにまつわる怪談も有名だ。車で通りがかった際にふとミラーを見ると、誰もいないはずの自分の車の後部座席に、白い着物を着た髪の長い女性が映り込んでいるという。驚いて振り返ってもそこには誰もいないが、ミラーの中の女は、じっとこちらを見つめているとされている。
- 謎の音と車両トラブル 車で峠を走行していると、どこからともなく「うぅ…」という低い呻き声や、鎧が擦れるような音が聞こえてくることがあるという。また、「急にエンジンが停止した」「カーナビがおかしなルートを示し始めた」といった、原因不明の車両トラブルに見舞われるという報告も少なくない。
メディア・文献情報
御霊櫃峠は、福島県を代表する心霊スポットとして、多くのメディアで紹介されている。心霊特集を組む雑誌や書籍では定番の場所であり、地元のテレビ番組でも夏の怪談企画などで度々取り上げられてきた。インターネット上では、その知名度の高さから個人の体験談や検証動画が豊富に存在し、今なお新たな恐怖の報告が投稿され続けている。
現地の状況・注意事項
- 現在の状況: 峠道は全線舗装されているものの、道幅は狭く、ガードレールのない断崖や見通しの悪い急カーブが連続する。夜間は街灯が一切なく、完全な暗闇となる。
- 立入禁止区域: 通常期に立入禁止区域はないが、冬季(例年12月上旬から4月下旬頃まで)は積雪のため、峠道全体が通行止めとなる。 訪問を計画する際は、必ず事前に福島県の道路交通情報を確認すること。
- 安全上の注意点: 夜間の走行は非常に危険を伴う。霧が発生しやすく視界が著しく悪化することがあるため、運転には最大限の注意が必要。対向車や野生動物の飛び出しにも警戒し、スピードは控えめに。携帯電話の電波が届きにくい区間もあるため、万一のトラブルに備えておくことが望ましい。
- マナー・ルール: 頂上付近に駐車場と展望台があるが、夜間に大声で騒ぐなど、他の利用者の迷惑になる行為は慎むこと。また、歴史的な背景を持つ場所であるため、敬意を払うことを忘れてはならない。
訪問のポイント
昼間に訪れれば、猪苗代湖と会津盆地、そして郡山市街を一望できる県内有数の絶景スポットとして楽しめる。特に空気が澄んだ秋の紅葉シーズンは格別の美しさだ。
心霊スポットとしての雰囲気を体験したいのであれば夜間となるが、その際は必ず複数人で訪れ、車の運転には細心の注意を払うこと。特に霧の発生しやすい夜は、霊的な恐怖だけでなく、物理的な危険度も格段に増すことを肝に銘じておくべきである。