和歌山県日高郡、海岸線から少し内陸に入った山中に、そのトンネルは静かに口を開けています。通称「旧由良トンネル」、正式名称を「由良洞」。明治時代に築かれた美しい煉瓦造りのこの隧道は、日本の近代化を支えた貴重な土木遺産です。
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和歌山県日高郡、海岸線から少し内陸に入った山中に、そのトンネルは静かに口を開けています。通称「旧由良トンネル」、正式名称を「由良洞」。明治時代に築かれた美しい煉瓦造りのこの隧道は、日本の近代化を支えた貴重な土木遺産です。しかし、歴史的価値とは裏腹に、夜の闇に包まれたトンネルは和歌山県最恐クラスの心霊スポットとしてその名を轟かせています。特に有名なのは、この地で殉職したという白バイ隊員の霊「首なしライダー」の伝説。歴史と怪談が交差する、美しくも畏ろしい場所なのです。
歴史的背景
場所の歴史
旧由良トンネル(由良洞)は、1889年(明治22年)に完成した、現役で使われている道路用煉瓦トンネルとしては日本最古級の歴史的建造物です。かつて熊野古道の最難所とされた「鹿ヶ瀬峠」を迂回する新道の一部として建設され、地域の交通を飛躍的に向上させました。その功績と明治期の優れた煉瓦建築技術が評価され、「日本の近代土木遺産」でAランクに指定されています。しかし、1965年に新しい国道42号線の由良トンネルが開通すると、旧トンネルは県道23号線上の交通量がほとんどない静かな道となり、幹線道路としての役目を終えました。
心霊スポット化の経緯
このトンネルが心霊スポットとして語られるようになった根源には、一つの悲劇的な伝説があります。それは、このトンネル付近で職務中に事故で亡くなった白バイ隊員の霊が、「首なしライダー」となって今も夜な夜な現れるというものです。この噂は、単なる作り話ではなく、現場近くにその隊員を供養するための慰霊碑が建てられているとも言われており、その存在が伝説に強烈な信憑性を与えています。主要な交通の流れから取り残された旧トンネルの暗さ、狭さ、そして孤立した環境が、この悲しい物語と結びつき、和歌山屈指の心霊スポットという評判を不動のものにしたのです。
怪奇現象・体験談
主な現象の種類
この場所で語られる怪異は、その多くが車やバイクでの通行中に起こるとされています。
- 首なしライダーの出現: 最も有名な現象。バイクに乗った首のない警官の霊が、猛スピードで追いかけてくる、あるいは目の前を横切ると言われています。
- 白い服の女性の霊: トンネル内に佇んでいたり、歩いていたりする姿が目撃されています。日本の怪談における典型的な幽霊の姿です。
- 幽霊車: 後ろから近づいてくるときは普通の車に見えるのに、追い越されたり、バックミラーで確認したりすると忽然と姿を消しているという怪談。乗っているのは青白い顔の男女で、目が合うと後をつけられるという不気味な尾ひれもついています。
代表的な体験談
具体的な個人の体験談は少ないものの、テレビの心霊特集で何度も取り上げられたことで、その恐怖は全国的に知られています。実際に夜間に訪れた人々が口を揃えるのは、照明が一切ないトンネル内部の圧倒的な闇と閉塞感です。エンジン音が不気味に反響し、ヘッドライトの光が照らし出す濡れた煉瓦の壁が、言い知れぬ恐怖を掻き立てるといいます。
地元の伝承
地元では、首なしライダーの伝説が、実際にこの地で起きた悲しい事故の記憶として語り継がれています。慰霊碑の存在も噂され、このトンネルが単なる怖い場所ではなく、鎮魂の祈りを捧げるべき場所であるという認識も根付いています。
メディア・文献情報
旧由良トンネルは、関西を代表する心霊スポットとして、これまで数多くのメディアで紹介されてきました。特にABEMAの番組「ぜにいたち」をはじめとする心霊検証番組で取り上げられたことで、その知名度は飛躍的に上がりました。インターネット上でも、多くの心霊系YouTuberやオカルトサイトが探索レポートを公開しており、新たな訪問者が後を絶たない状況を生み出しています。
現地の状況・注意事項
現在の建物・敷地の状態
旧由良トンネルは、現在も県道23号線の一部として通行可能な状態にあります。日高町側の坑門は美しいイギリス積みの煉瓦アーチが残る一方、由良町側はコンクリートで補強されています。トンネル内に照明はなく、道幅も車一台がやっと通れるほど狭いため、通行には注意が必要です。時折、ゲートで封鎖されていることもあるようです。
立入禁止区域の有無
トンネル自体は公道ですが、周辺は私有地や山林です。みだりに立ち入ることは避けてください。
安全上の注意点
夜間の訪問は非常に危険です。照明がないため、懐中電灯は必須ですが、車で通行する際は対向車に十分注意してください。道幅が狭く、すれ違いは困難です。また、慰霊碑の噂がある場所なので、不敬な行為は絶対に慎んでください。
マナー・ルール
ここは歴史的な土木遺産であると同時に、悲しい事故の記憶が残る場所かもしれません。肝試し目的であっても、大声で騒いだり、ゴミを捨てたりする行為は厳禁です。静かに歴史と向き合い、敬意を払って通行しましょう。
訪問のポイント
おすすめの時間帯・季節
明治時代の美しい煉瓦建築や歴史に興味がある方は、安全な昼間の時間帯に訪れることを強くお勧めします。心霊スポットとしての雰囲気を体験したい場合は夜間となりますが、その際は自己責任で、安全対策を万全にしてください。
周辺の関連スポット
- 白崎海洋公園: 「日本のエーゲ海」とも称される、白い石灰岩の断崖が美しい景勝地。トンネルから車でアクセスしやすい場所にあります。
- 戸津井鍾乳洞: 和歌山県で唯一、観光用に公開されている鍾乳洞。自然が作り出した神秘的な空間を探検できます。
- 熊野古道 鹿ヶ瀬峠: このトンネルが作られるきっかけとなった、かつての難所。歴史好きな健脚家向けのハイキングコースです。